ヘニュード・イオンカ

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古代縄文文化を色濃く受け継いでいるアイヌ民族においてこの楽器の継承者は、故・秋辺今吉さんと石井ポンペさんがいらっしゃいますが、その二人の継承者はこの「地響きのような音のする笛」の事をそれぞれ違った呼び方をしている為ヘニュード(石井ポンペさん)とイオンカ(秋辺今吉さん)の2つの名前があります。
日高エリア出身の石井ポンペさんの継承しているヘニュードは短く1メートにも満たない高音に特徴ある単筒笛です。
一方釧路エリア出身の秋辺今吉さんが継承していたイオンカは長く、優に1メートルを超える低い倍音が特徴の単筒笛です。

江戸時代から倭人の残した文献に登場し、それによるとこの楽器を指す名前の記述がそれぞれ違い、ある文献によると、チレク テ クッタラ{我々が鳴らす筒}だったり、ピットク{水筒}やペックトゥ レッテ{川の筒を吹き鳴らす}、チレカレフ{我らの笛}だったりします。
イオンカと言う呼び方は、高齢の秋辺今吉エカシ{長老}がお爺さんから教わった名前の為、古来からの名称である可能性が高いですが謎が多いです。

{知里真志保著「分類アイヌ語辞典」によりますとイオンカとは「発酵する」の意味がありますが、これはボーナと呼ばれる植物が腐りやすいためこの植物に付けられた名前らしいです。しかし楽器として付けられた経緯は書かれていなく、二人の継承者が使う植物とこのボーナという植物はまったく別物であり、楽器に出来るような太さも持ち合わせてはいません。しかし、アイヌ民族が「」という言葉を使う時には山の王者キムンカムイ{ヒグマ}や村の護り神コタンコロカムイ{シマフクロウ}など、恐れ多くてその名を呼べない程の存在の事を代用して言葉にする場合です。イオンカでもという言葉が使われている事から何か含まれた、暗号めいた言葉で有る事は間違いありません}
この大きな植物は自然界の中で主に昆虫の拠り所として役割を担い、夏には雀蜂や蝶など沢山の昆虫や鳥にその撓わに咲かせた花の甘い蜜によって育て、秋にはカメムシや蝶、蛾などの産床となりその固い外皮によって寒さから幼虫を護ります。

自然界においてこの大きな植物は昆虫の聖地のような役割を果たしています。

人も古代からこの大きな植物を狩の為に海や山へ入る事を精霊達に知らせるために長い笛にして吹き鳴らしていました。

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ヘニュード・イオンカにまつわる伝説

オーストラリアノーザンテリトリー州北部、アーネムランドに住むアボリジニが2000〜1500年前から伝統的に使用する事で有名な原始的管楽器「イダキ」通称ディジュリドゥ
このイダキと同原理でドローン音を基調とする楽器はオーストラリアの他にも、パプアニューギニア、インドネシア、台湾、ハワイ、南米アマゾン、そして日本列島にもみつかっている。

北海道から程近い樺太に住むニブヒ・ウィルタ族にもカルギという見た目も素材もヘニュードイオンカと全く同じ楽器が存在している。カルギは短長両方のタイプがあるが長い物は2メートルにも及ぶ場合がある。
アイヌが倍音を奏でるのに対しニブヒやウィルタでは女性が海に向かって水平に構え声を反響させ音を鳴らす。シャーマニズムが文化に色濃く残る中で海の神へ豊漁を願う神聖な音を奏でる道具として使用しているのではないだろうか?
そしてそのカルギ(アイヌ語の食べ物を示すハルニブヒの動植物を示すルギが合わさっている・北海道大学ニブフ研究者、丹菊逸治さん談)という語源からアイヌ民族から伝わった可能性があるという。余談ではあるが台湾やメラネシア・ポリネシアエリアで使われることが有名なスリットドラムも在り、形も酷似している。つまりこれは古代日本列島にもスリットドラムが在ったことを意味している。

現在アイヌ民族ではイオルと呼ばれる自分達の狩場である山や海に入る前に、その場の精霊に告げる為に吹くという伝説が残っている。

その昔、縄文人達がカヌーで南へ旅立ち現在のペルー・エクアドル辺りへたどり着いたという伝説・グレートジャーニーがある。

南の大地オーストラリア北部・北東アーネムランド、ヨォルゴ族の長老は語る。

「その昔、今の日本からカヌーでこの土地へやってきた人々がいた。
人々は歌い踊り儀礼を共にしまた旅立っていった。
今でもこの土地の人々はその唄を歌い継いでいる…」

その昔、縄文人達はまだ見知らぬ南の海へ船を漕ぎ出した。 その時に海の神と繋がるこのヘニュード・イオンカを持っていったのではないだろうか・・・?

ヘニュード・イオンカについてもう少し突っ込んでみます…

原材料であるこの特殊な植物は、今では北海道と内地の高山地域のような気温が低い場所にのみごく少数残っているだけとなってしまっていますが、縄文中期から縄文後期、今よりも気温の低かった時代、内地の平野にも自生していたと考えられます。

日本の歴史において諺の中で蔑まされる様になったこの植物は、東北地方の民間の昔話の中では神が宿るとさえ言われているほど神聖な植物でした。
蔑まされる事になる背景には、この植物を大事に扱った、または使用していた一族を追いやる意図が隠れ潜んでいる可能性があるのです。

大きく育つ割に建材にならないこの植物の使い道は何かあったのでしょうか?
その答えにアイヌ民族は古代からの形でヘニュード・イオンカとして残しているののではないでしょうか。
東北の蝦夷は同原理の楽器を今ではコサ笛として残しています。蝦夷の猛将アテルイはコサ笛を吹き鳴らし、大風や大雨など天候を自由に操って朝廷を翻弄させたと言われています。アテルイ程の力は無くとも蝦夷達はコサ笛を吹いて霧を起こし身を隠して戦ったと言います。

太古の昔、山へ入る時、海へ入る時、神聖な場に入る時、ヘニュード・イオンカを吹き鳴らして、その土地へ入る事をその場の精霊に告げるのが習わしでした。
少なくとも縄文中期からこの植物がなくなってしまうまでこの日本列島の土地に、精霊に、ヘニュード・イオンカの音は捧げられてきたのです。

シャーマニズムにおいて、この世と霊界はトンネルで繋がれています。
母親の子宮から外の世界へ繋ぐ産道を象徴していると捉えてもいいでしょう。
まさにヘニュード・イオンカはそのトンネルを象徴し、人間の言葉をカムイの世界へ告げるとても神聖な道具なのです。

多くの血は混じれど、この日本列島に生きる私達の祖先達の作法を今現代に蘇らせてみませんか?
そこに断絶された歴史復建、スピリット復建の一幕が開かれているかもしれません。

今一度この楽器から発せられるバイブレーションを私達が生きるこの日本列島に捧げてみませんか?


※ご注意
よく、ヘニュードを制作したいから生えている場所を教えて欲しいとの問い合わせや原材料についての問い合わせがあるのですが、残念ながら教える事は継承者のお2人から止められています。これはヘニュード・イオンカの非常に敏感な植生によるものである事を理解して頂きたいです。
近くに家が立ち並び、人による開発の手が伸び、この植物に必要な大量の綺麗な水が汚れてしまえば簡単に姿を消してしまいます。
僕はこの植物を頂くに当たり、常にアイヌの作法に習い、オンカミ{カムイへのお願い}をしています。その様な手順を踏まずには自然界の物を頂く資格は無いと言うことを常々教わっているからです。
このような聖地に、もし無差別に人が入り作法をしらず採り始めてしまったらどうなってしまうのか?
あれだけ沢山のユーカリが生えているオーストラリアでさえ伝統的にはディジュリドゥがない地域では採り尽くされているのに{アーネムランドではちゃんとコントロールして採られているためありえません}、個体数の少ないヘニュード・イオンカでは絶滅は免れません。
現在、この事を理解してもらえず北海道に住むディジュリドゥプレーヤーの中で極少数の人が文化も関係なく自分の為にこの楽器を利用している状況もあります。石井ポンペさんが物言いをし、利用されないように活動しておられますが、この状況も悲しい事であり、この文化を紹介してきた私にとってもとても罪悪感が否めません。
この事はご理解頂き、この先の公式な文化復興のためご協力お願いします。

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